SAP Basisの運用業務と構築業務の違いを徹底解説!
SAP Basisエンジニアは運用保守担当からキャリアをスタートすることが多いかと思います。
本記事では、SAP Basisの運用業務からのキャリアアップを目指す方を対象に、SAP Basisの構築業務とはどのようなものか、どうすれば構築業務を担当できるのか、運用業務から構築業務へのステップアップについて解説していきます。
SAP Basisの運用業務とは
SAP Basisの主な運用業務は、システムが正常に稼働しているかの監視、障害検知から解決までの対応をアプリケーションチームやインフラチームを巻き込んでの対応、利用状況から今後のキャパシティを予測しての各種チューニング作業を実施することとなります。
運用業務は事前に定義したサービスレベルに従い、システムが正常に稼働しているかどうかを管理・メンテナンスしていくことが主たる業務となります。
SAP Basis領域においてはシステムに変更を加えるような保守業務を実施することは稀で、日々のシステム監視や手順書に従った定型作業が主と言えるでしょう。
- システム稼働状況のモニタリング
- 問い合わせ対応
- 障害対応
- 予防保守対応
SAP Basisの構築業務とは
SAP Basisの構築業務では主に要件定義・設計・構築フェーズを担当します。
最新トレンドに常にアンテナを張り巡らせ、最適なソリューションの提供が求められます。
特にSAP Basis担当として押さえるべきトレンドはクラウドへの移行やSAP ERPの保守切れに伴うS/4HANA対応となります。SAP Basisの構築業務ではアプリケーション担当や顧客のIT部門だけでなく、時には顧客の業務部門などとコミュニケーションする能力、常に最新技術や業界動向を取り入れる知識とスキル、未知の課題に立ち向かう解決能力が求められます。
- 機能要件・非機能要件などの要件定義
- SAPシステムや周辺システムのインフラ設計
- 各種ミドルウェアのインストール
- システムのマイグレーションやアップグレード
- 設計書・手順書の作成
①SAPシステムクラウド移行作業
日本でもインフラ基盤としてAWSやAzureなどのパブリッククラウドを選択肢にするのは当たり前になりつつあります。
また、SAP S/4HANA Cloud Extended Editionの登場により、SAPシステムの移行先は多種多様となっています。
クラウドへの移行といってもIaaS、PaaS、SaaSなど様々な提供形態があります。
既存のSAPシステムをクラウドへ移行する場合は下記のリスクがありますので、早い段階で検討しておく必要があります。
- 保守ベンダーの明確化
クラウド提供業者・提供形態ごとに運用保守範囲が異なります。
安定したシステム運用のためには保守内容・範囲に漏れがないような検討ができているかどうかが重要です。 - セキュリティ対策
SAPシステムは周辺システムとの接続が多いため、各システムへのアクセスはセキュアなのか、データは暗号化されているのかなどといったセキュリティ対策が重要となります。
また、GDPR(EU一般データ保護規則)など各種法規制に遵守可能かも重要なポイントとなります。 - アドオン/モディフィケーション
アドオンやモディフィケーションが多い場合はS/4 HANAに準拠しているかの確認や業務プロセスの改革も含めて抜本的な検討が必要となります。
②各種アプリケーションインストール作業
基幹業務の根幹となるSAPシステムを導入する場合にSAP Basisが担当する役割について記載します。
- サイジング/非機能要件定義
業務部門やアプリ担当から受領した入力データを元にシステムのサイジングや非機能要件を定義します。 - SAP環境導入
SAPインストール作業を実施します。
ERP(S/4 HANA)だけではなく、Solution Managerや各SAPシステムのインストールや接続設定も実施します。
また、各プロジェクトフェーズに応じて、クライアントコピーやシステムコピーによるテスト環境の構築やオブジェクトの整合性管理を実施します。 - ミドルウェア製品導入
バックアップ・監視・ジョブ・インターフェイス・アーカイブなどのミドルウェア製品を導入し、SAPシステム用にカスタマイズします。
多くの場合、最新バージョンでの導入となるため、未知のエラーが発生することが多く、SAPノートなどから既知の類似事例の検索や、SAP社や各ベンダーへ問い合わせ、解決策や暫定対応策を実施することとなります。
またプロジェクトスケジュール遵守のために短期間での導入を求められるため、迅速な対応が必要となります。
③SAPアップグレード作業
SAPシステムの製品やコンポーネントの保守期限が決まっており、アップグレード作業が発生します。
SAPシステム関連の場合、影響範囲などから下記のように分類されます。
上からSAPシステム自体の稼働に影響が少ないものとなります。
- バックアップや監視などのミドルウェア製品のアップグレード作業
- OS、データベース、SAPカーネルのアップグレード作業
- SAPアップグレード作業(Unicodeコンバージョン、SPS適用、ERP6.0からS/4HANAへのアップグレードなど)
共通の検討事項として、各製品は正常な動作を保証するためのバージョンマトリックスが用意されており、それに従ってSAPサポート対象になる構成にする必要があります。
特に、S/4HANAへのアップグレードは現行環境のバージョンなどにより対応内容が異なるため、下記の検討が必要です。
- Unicodeへの対応
古くからSAPを利用している場合、Non-Unicodeのままになっているケースがあるため、現行環境がUnicodeに対応しているか確認する必要があります。 - S/4HANAへのダイレクトアップグレードの可能性
基本的に現行環境がERP6.0であれば問題ありませんが、一部のバージョンではダイレクトにアップグレードできないため、アップグレードのルートを検討する必要があります。 - データアーカイブの必要性
アップグレード時間はデータ量に大きく依存されます。
また現行環境がHANAではない場合、S/4HANA化でデータベースがHANAとなるため、ハードウェアキャパシティの観点からメモリに不要なデータをロードさせないように検討する必要があります。
アップグレード作業は現行環境のコンディションに大きく左右されることもあり、様々なトラブルが発生するため、幅広い知識と迅速な課題解決力が必要となります。
④基本設計、詳細設計に関するドキュメント作成
SAP Basisの構築業務として重要なものにドキュメント作成があります。
通常、構築ベンダーと運用ベンダーが異なる場合が多いため、ドキュメント(設計書/手順書)を運用ベンダーに引継ぐまでが構築ベンダーの実施範囲となります。
つまり、構築担当と運用担当は別の担当になるため、本番稼働後もシステムを安定稼働をさせるためにはきちんとドキュメント化して引継ぎをすることが重要となります。
SAP Basisの構築担当にSAP Basisの運用経験が無ければ、運用に必要なドキュメント体系や運用を見据えたドキュメントの作成ができないため、そういう点からも運用業務をきちんと経験しておくメリットがあります。
- 要件定義書
業務に必要となるシステム、ソフトウェア一覧、非機能要件を定義した資料。 - 基本設計書
非機能要件に従い、システム構成(可用性の実装方法を記載)やシステム連携図(データ連携方法を表現)を記載した資料。 - 詳細設計書
基本設計書を基に具体的な設定値を記載した資料。 - 運用手順書
運用業務実施のための手順を詳細に記載した資料。
SAP Basisの運用業務と構築業務は全く異なる
SAP Basisの運用業務と構築業務の大きな違いは担当するフェーズにあります。
SAP Basisの構築業務はシステム稼働前の要件定義~設計~システム構築フェーズを担当するのに対し、運用業務はシステム稼働後の運用保守フェーズを担当します。
SAP Basisの運用業務で求められるスキルと構築業務で求められるスキルには大きなギャップがあるため、運用業務で経験を積んでもなかなか構築業務にステップアップすることが難しいというのが現状です。
SAP Basis運用担当から構築担当になるのがベター
SAP Basisの構築業務はSAPを含むシステム全体の要件定義から実装、運用への引継ぎまで、幅広い対応が求められます。
また、常に最新技術を取り入れていく必要があり、未知の課題を解決していく能力も必要となります。
一方、SAP Basisの運用業務においては障害発生時の迅速な対応能力が必要となりますが、大半の対応は予め手順が用意されているような定型作業の実施となります。
設計・構築フェーズと運用フェーズでは求められるスキルが異なってきますが、運用・保守で培った経験や知識を構築フェーズにフィードバックすることはシステムのライフサイクルにおいて非常に有意義なものとなります。
今後のキャリアパスの一つとして、SAP Basis運用業務から構築業務へのステップアップを目指しましょう!
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クラウドへの移行、SAP ERPの保守切れ対応、DX化など今後もSAP Basis関連の案件は増加していくことが見込まれます。
そのため、構築業務ができるSAPコンサルタントやエンジニアの需要は高くなると考えられますが、そうした案件では豊富な知見やスキルを求められることがほとんどです。
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